■求められる相当の覚悟 揺れる佐賀空港 

 壁一面ガラス張りの搭乗待合室からは、どこまでも続く田園風景と有明海が一望できる。「佐賀の記憶をおみやげに持ち帰ってほしい。そんな願いを込めた造りだ」。昨年12月の佐賀空港国際線ターミナルビルの完成記念式典であいさつした古川康知事。そんな佐賀らしいパノラマは遠くない将来、ごう音を響かせながらオスプレイが飛び交う緊迫した空気に包まれているのだろうか。

■LCCの拠点に

 佐賀空港は1998年に3路線で開港。名古屋便、大阪便が相次いで撤退し、長く低迷にあえいだが、地方空港の生き残りをかけた格安航空会社(LCC)の誘致合戦を制し、上昇気流に乗った。

 東アジアのLCC拠点空港を目指し佐賀県が9億円を投じた国際線ビル。人口減少で地域経済が縮小する中、成長著しいアジアの勢いを取り込もうと国際観光に力を入れる。利用者を伸ばし続け、LCCが相次いで就航する佐賀空港は古川知事にとってまさに政策の中核をなす“掌中の玉”だ。

 佐賀空港はどう変わるのか-。「この分野で県庁に十分な知識や経験はない」「県営空港を自衛隊が借りた事例が見つからない」と会見で語った古川知事。県の関係部局は情報収集に追われている。

 国土交通省航空局によると、民間航空と自衛隊や米軍が共に乗り入れる空港には二つのパターンがある。

 一つは自衛隊や米軍が設置、管理する飛行場を民間利用する「共用空港」。この場合は航空法や日米地位協定に乗っ取って国交省が指定手続きを取る。岩国や三沢、徳島など全国に8空港ある。

 もう一つは国や自治体が管理する空港を自衛隊が利用するパターン。佐賀空港への要請もこれに該当するが、航空局は「空港はあくまで公共施設。もともと使用者を限定した基地の飛行場と違い、誰でも使うことができる。自衛隊だからだめだとか、法律上の制限とかない。要は離発着の頻度や部隊の規模に応じて個別に話し合いで決めること」と説明する。

 後者は大半が国管理の空港だが、2005年に国管理から愛知県管理に変わった名古屋空港は東側に隣接する航空自衛隊小牧基地が滑走路を共用。年間1万3千回ほど離発着している。県営に変わったタイミングで県条例に基づき着陸料を徴収し、12年度は自衛隊機だけで9億8千万円の収入があった。管制業務や空港の消防業務も防衛省で実施している。最初から県が設置、管理する佐賀空港とは事情が異なるが、議論の参考にはなりそうだ。

■「地元の理解を」

 ただ、国管理であれ、自治体管理であれ、後から米軍が駐留した空港は「承知していない」(航空局)。武田良太防衛副大臣は運用について、夜間の飛行時間などを制限した県の空港条例に「基本的に沿う」と強調したが、県空港課の懸念は拭いきれない。

 1月、羽田最終便の佐賀空港到着が現在の午後8時半から同9時5分になった際、空港課は飛行直下で騒音の影響が大きい柳川市の住民向けに説明会を開いて同意を得た。「とにかく地元の理解を大切に空港運営を進めてきた」。その思いは米軍にも届くのか。

 基地問題に詳しい流通経済大学の植村秀樹教授(安全保障論)は「沖縄では夜間の違反飛行が常態化している。佐賀だけルールが守られることはないし、管制も米軍優先になるだろう。米軍に一度使わせると治外法権になる」と危惧する。

 佐賀空港の姿は、県民の営みは今後、どう変わっていくのか。交付金などの懐柔策でなりふり構わない国と渡り合うには、県にも相当の準備と覚悟が求められる。そして“我が身”に降りかかってきた沖縄の「痛み」とどう向き合うのか。その姿勢も問われている。