レポート:スイスで「原発」国民投票実施、脱原発計画を早める提案が否決(第一回)

2016年11月27日、スイスで実施された「原発」国民投票について、二回に分けてレポートします。第一回では、スイスの電力事情や、今回の国民投票に至る経緯、是非が問われた提案の詳細について紹介します。(文責、当会運営委員長・鹿野)


賛成45.8%、反対54.2%で否決

2016年11月27日、スイスで原発の早期閉鎖の是非をテーマにした国民投票が実施されました。この国民投票では、既存の原発の運転期間を45年に限定することで2029年までに計画的に脱原発を実現することの是非が問われました。

投票の結果は、賛成45.8%、反対54.2%でした。投票者の過半数の賛成を得ることができず、また州の過半数の賛成も得ることもできず、国民投票で問われた発議は否決されました。

投票率は45パーセントで、スイスで行われた近年の国民投票と比べて平均的な数字でした。福島第一原発の事故後、原発をテーマに国民投票を実施したのは、イタリア、リトアニア、ブルガリアに続いて、4か国目になります。

スイスの電力事情 – 水力と原子力が2大電源

スイスの電力事情の一番の特徴は、水力発電が盛んなことです。山々から北海、アドリア海、地中海、黒海といった海へと流れる川を利用して作られた水力発電所によって、2015年の実績では59.9%もの電力が担われました。原子力は、水力発電に次ぐ電力源です。現在国内に5基の原子力発電所が存在していて、2015年の実績では電力供給の33.5%が原子力発電所によるものでした。水力と原子力で90%以上の電力が担われていることになり、火力発電所や再生可能エネルギーが残りの供給を担っています。

5基ある原子力発電所の概要は次のとおりです。5基のうち4基は運転期間40年を超えていて、福島第一原発の事故前から原発の老朽化は大きな問題の一つでした。

名前 稼働開始 出力
ベツナウ第一 1969年 365メガワット 加圧水型
ベツナウ第二 1971年 365メガワット 加圧水型
ミューレベルク 1972年 373メガワット 沸騰水型
ゲスゲン 1979年 985メガワット 沸騰水型
ライプシュタット 1984年 1190メガワット 沸騰水型

swiss_genpatsu_map
出典:国際原子力機構(IAEA)より補足

福島第一原発事故後の脱原発潮流と国民投票に至る経緯

福島第一原発の事故は、スイス国民にも衝撃を与えました。2011年、福島の事故の後、スイス政府は原発の運転期間を原則50年にすると掲げ、2034年に脱原発を実現することを示唆しました。

これに対して緑の党は、運転期間50年は長すぎると考え、国民投票の準備を始めます。今回の国民発議の提案は2011年5月に作成され、同年11月に連邦内閣事務局に提出されました。緑の党の下院議員を務めるロベール・クラメール氏は、福島の事故が今回の「イニシアティブ(国民発議)を立ち上げるきっかけになったことは確か」と話しています。その後2012年11月、緑の党を中心にグリーンピースなどの環境団体や労働組合が108,000筆を超える署名を集めて提出したことによって、今回の国民投票が実現される運びとなりました。

その後、政府が提案し、今年の9月に修正を経て議会で承認された「エネルギー戦略2050」計画では、新規原発の建設禁止に加えて、再生可能エネルギーの発電量の増加に合わせて脱原発を実現することが明文化されました。しかし、脱原発の工程・期限が明確にされることはありませんでした。

スイスの国民投票制度

スイスには幾つもの国民投票のタイプがありますが、その中でもよく活用されるのは憲法改正を提案する国民投票と制定された法律の是非を問う国民投票です。

スイス国民が憲法改正の国民投票を提起するには、18ヶ月以内に10万筆以上の署名を集める必要があります。これは、スイスの有権者数の2%弱にあたります。また、国民投票実施の結果、憲法改正が承認されるには「二重の多数」が求められます。具体的には、国全体で投票者の過半数の賛成を得ることに加えて、州ごとに投票結果を集計して過半数の州で賛成が多数になることが必要になります。

一方、新法の是非を問う国民投票は、連邦議会が可決した法律に対して国民が異議を唱えるもので、その公布から100日以内に5万筆以上の署名を集めると国民投票が実施されることになります。国民投票の結果として否決が承認されるために「二重の多数」は不要で、国全体で投票者の過半数の賛成を得れば、その異議は認められて新法が否決されます。署名数、結果の承認要件ともに、憲法改正の場合よりも必要な条件は緩やかになっています。

なお、スイスでは憲法改正は珍しいことではありません。憲法が最初に制定された1848年以降、1874年と1999年に全面改定が実施されています。1874年と1999年の全面改定の間には、140回を超す部分改訂が行われており、その後もコンスタントに改正が行われています。スイスで憲法改正が多い理由の一つは、憲法の特徴に求められます。定めていることの範囲が普通の国よりも幅広く、法律で規定してもいいような個別具体的な事項も憲法に記される場合があるため、その改正が必要になることも多くなります。また、国民が署名を集めることで憲法改正の是非を問う国民投票を実現できることも、改正が多い理由の一つと考えられています。

今回の国民投票提案の詳細

今回の国民投票は、憲法改正の国民投票に分類されるものです。スイス連邦憲法の第90条は「原子力エネルギー」についてのもので、「連邦政府は、原子力エネルギー分野の立法に責任を負う」と書かれています。

国民投票にかけられた提案は、この第90条の文言を「原子力発電所を操業し、電気や熱を生産することを禁止する」と書き換えて、原発禁止を憲法に明記することを求めました。同時に、第90条に2項目を追加し、関連する立法により省エネルギー、効率的なエネルギーの使用および再生可能エネルギーの生産に焦点が当てられるべきことを記しています。また第90条の経過規定も変更し、ベツナウ第一原発を「第90条の採択から1年後」、その他の原発を「発電開始から45年後」に操業中止とすること、同時に「原子力の安全を確保するために、これより早く廃止することは認められる」と記述することを提案しました。

最も新しい原発であるライプシュタット原発は1984年に操業を開始しているため、「発電開始から45年後」は2029年になります。つまりこの国民発議を承認することは、原発ゼロの期限を2029年と明確に記し、「エネルギー戦略2050」よりもペースを早め、計画定期に脱原発を進めることを意味していました。

※次回は、賛成論と反対論の中から主な意見を紹介するとともに、今回の結果に対するさまざまな評価や、今後の展望などを記します。


トラックバック&コメント

この投稿のトラックバックURL:

コメントをどうぞ