リレーメッセージ「第5回 ピーター・バラカン(ブロードキャスター)後編」

記事中、ピーター・バラカンさんは「バラカン」、今井一は「今井」と表記しています。


YesにしてもNoにしても、みんなで決めなきゃダメ。
国民もね、自分の声をそこで出さないと無責任ですよ。

今井:日本ではまもなく、3・11以降初の国政選挙、総選挙が行われることになりそうですが、今のままでは自民党が多数復活して、原発推進派の議席が逆に増える。「選挙では脱原発」の民意が反映されない可能性が高くなっています。私は「原発」の問題は国民投票で決着を付けるしかないと考え、仲間と一緒に【みんなで決めよう「原発」国民投票】という市民グループを立ち上げました。バラカンさんにもこの会の賛同人になっていただいてるのですが、「原発」と選挙、原発と国民投票についてどんな風にお考えになっていますか。

バラカン:今、世論調査や政府がやったパブリックコメントの聴取からみれば、「原発はゼロにすべき」だと考えている国民が半分近くいて、この先さらに増えるはず。そして過半数になったらその民意をきちんと聞いて政治や行政に反映する以外に道はないと思う。僕個人の意見としては、大昔から、チェルノブイリ原発事故よりも前から、原発はダメだと思っていた。要するに、放射性廃棄物を出すということは、無責任極まりない行為で、あと何万年も地球を汚染することにもうなってしまっているからね。これは取り返しのつかないことだけれど、もうこれ以上続けてはならない、というのが僕の考え方です。でも、僕だけの考えでは世の中は回らない。少なくとも日本に関しては、福島の原発の周りは、すでにかなり汚染されていて、相当遠い先まで誰も住めない状況なのだから、日本人にとってのんびり考えていられる問題ではないんですよね。「原発」推進か廃止かを政府が決めるためには、まずね、国民がどう考えているか、日本人全員が自分の意見を聞かせて、その民意を反映した政府の判断でなければ意味がない。政治家たちや財界のリーダーたちがみんな、原発は経済のためと言ってるけど、「じゃあ、何?みんな金持ちになって死にたいの?」

今井:それはお一人でどうぞ。他人、特に子どもたちを巻き込むなと。

バラカン:そう。すごく単純に聞こえるかもしれないけど、要はそういうことだと思うんですよ。

今井:もちろん選挙は大事だし、次の総選挙で立候補した人が「原発ゼロ」に賛成なのか反対なのか、我々が投票する前にそれをしっかり問いただし見極めることは意味がある。それはそれとして、主権者自らが直接決めるというのはもっと大事で意味がある。そして、自分たちで責任を取るということです。

バラカン:この国では憲法を改正しなければ国民投票ができないということが、また一つ大きな問題だと思うんですよ。民主主義の国で国民投票ができない国はどれくらいあるんですか。

今井:ほとんどないです。ナポレオンの時代から数えて、世界中で1150件の国民投票が行われてますから。アイルランド、フランス、イタリア、スウェーデン、スイス。バラカンさんが生まれたイギリスだってやってます。それとバラカンさん、憲法を改正しなくても日本で国民投票することはできますから。かつてスウェーデンがスリーマイルの原発事故の翌年(1980年)にやったように、諮問型の国民投票だったら、憲法を改正しなくてもできるんです。

バラカン:諮問型って?

今井:諮問型というのは法的拘束力のない国民投票です。

バラカン:「しもん」って、この指の「指紋」ではなくて、諮問機関の「諮問」ね。YesかNoか指紋をどちらかに押すのかと思った(笑)。そうなのか、憲法を変えなくてもいいんだ。

今井:はい。ですから我々はそれをやろうとして、この運動をしているんです。すでに国民投票法の市民案も作っていまして、国会がこうした法律を制定すれば、諮問型国民投票は実施できるんです。先日行われた民主党の代表選挙では、それをやるべしと主張した候補者(原口一博氏)も出ましたよね。

バラカン:法的拘束力がないものだったら、インターネットで勝手にやっちゃえばいいじゃない。

今井:いえ、それはまた別の話です(笑)。厳正なルール、きちんと議論をしたうえでやれば、結果が尊重されます。国の予算で公的にやったからこそ、スウェーデンにしても、EU憲法批准についてやったオランダにしても、結果がちゃんと尊重されるんです。今度我々が現地調査に行く10月14日のリトアニアの「原発」国民投票。これも法的拘束力がありません。けれども、結果が尊重されるのはきちんとしたルールで公的にやるから。そこが大事なところですよね。
 日本では、96年の8月4日に新潟県巻町で原発の住民投票が行われたんですが、それ以降住民投票は402件行われています。この住民投票はすべて法的拘束力はないんです。条例に何と書いてあるかといったら、「結果について市長や議会はこれを尊重しなければならない」とあります。「従わなければならない」とは書いてありません。けれども、新潟県の巻町だって、刈羽村だって、三重県の海山町だって、全部住民投票の結果通りになっているんです。その後、議会選挙では原発、プルサーマル反対派は負けていますが、住民投票の結果は守られています。


バラカン:なるほどね。

今井:じゃあ、なぜ法的拘束力のある国民投票が日本でできないかというと、日本の憲法に、「国会は国権の最高機関で唯一の立法機関である」(41条)と書いてあるから。国民投票の結果によって、国会で決めたことをひっくり返すわけにはいかないからです。しかし、イタリアの場合、国民が納得がいかない場合は、国民が国民投票でひっくり返すことができる、法律を廃止できると憲法に記してあるんです。だから去年、イタリアでベルルスコーニ首相が、「イタリアは原発を再開する」と言って法律も整えましたが、国民が国民投票でひっくり返しましたよね。ベルルスコーニは従わざるを得なかった。本当はそういう強力な国民投票をやればいいんですが、憲法を41条を改正している時間がない。だから、まずは諮問型でやろうと。諮問型だったら政府が結果を反故にする、守らない可能性があるとよく言われるんですが、それは大丈夫です。だってね、世界中で、1150件の国民投票が行われているのに日本では、一回もしたことがない、一回も。その日本が、日本という国ができて初めて国民投票をやるとなったら、しかも「原発」についてやるとなれば世界中が注目する。世界が見ている中で政府がその結果を反故にすることなんかできないですよ。だから、それをやるための運動なんです。かつて民主党は、憲法以外でも、生命倫理の問題、臓器移植とか、脳死の問題、統治機構の問題、あるいは原発の問題、こういう問題も国民投票にかけるべきだと政権に就く直前までは言っていました。しかし、政権に就いたのにやらないから、私たちは彼らを厳しく批判しています。

バラカン:その「原発」国民投票は実現可能ですか?

今井:可能です。現に、民主党の中でも先ほどお話したような声が上がっていますし、何より主権者である国民の7割以上がそれを望んでいるんだから。
 それで、バラカンさん、実を言うと我々は、2000人の衆議院議員予定候補者と現職の議員全員に「原発国民投票を実施することに賛成するか、反対するか」という公開質問状を差し出しました。回答については、今月末からすべてHPに公開する予定です。そのあとは議員個人へのロビー活動を強め、なんとか国民投票法の制定に持ち込みたい。そんなわけで、この先もお力添えをよろしくお願いします。


バラカン:もちろん、そうした活動に大賛成です。仮にね、国民投票をやって国民の60%が再稼働することに決めたとしても、それは悲しいけれども、仕方がない。国民がそう決めたんだったら。

今井:そこなんですよ。主権者が決めたことならばね。でも、反原発派の一部の人たちは、そうなるのが怖いから国民投票は嫌だと言っている。彼らは、なかなかバラカンさんのようにはわかってくれない。そこが我々の悩みの種なんですよ。バラカンさんは、なぜ6対4で負ける可能性があってもやるべきだとおっしゃるんですか。

バラカン:なぜって当たり前のことじゃないですか。要するに、民意を諮るわけですから。民意はやってみないと、どっちに行くかわからない。日本人の多くの人たちがどう考えているかを、とにかく一度はっきりさせるべきです。それだけですよ。

今井:つまり、バラカンさんはバリバリの反原発派だけれども、それはそれで、しかし、国民投票はやるべきだと。

バラカン:そう。僕の独裁で決められれば、それは嬉しいですよ(笑)。でも、残念ながらそんなに世の中は甘くないんだからね。原発の問題は今の日本が抱えている最も深刻な問題だと思うんです。財政赤字や消費税の問題など大変な問題もあるけれども、生きるか死ぬかという命の問題にもなりかねないのが原発問題ですから、とにかくこれだけは最優先にして決めなくてはならない。そして、政治家たちの力だけでは決められない。決めてはいけない。

今井:無理ですよね、責任なんて取れないもの。野田さんは取るって言って大飯原発の再稼働を宣言したけど。

バラカン:そうそう。野田さんの安い政治生命をかけられてもね。

今井:本当に傲慢ですよね。この国の子どもたちの未来を自分の安い政治生命と引き換えにできると思ったら大間違いですよね。

バラカン:本当にそうだと思う。だから、とにかくね、YesにしてもNoにしても、みんなで決めなきゃダメ。国民もね、自分の声をそこで出さないと無責任ですよ。それをやらなければ、「じゃ、永田町の連中に全部一任してもいいってこと!?」になるわけじゃないですか。「じゃ、あとで文句言うなよ」ということになる。

今井:そうなんですよ。我々から考えたらこれはもう常識なんですけどね。反原発派の中にもどうしても国民投票は嫌だと言う人がいるんです。東京都民投票の時にも、反原発運動を30年間やっている都議会議員が都民投票条例制定に反対票を入れたんです。

バラカン:ええっ?何で?

今井:都民投票をしたら、反原発派が負ける可能性があるから嫌だって。絶対勝つという状況じゃないと嫌だって。

バラカン:(絶句、ため息)

今井:もう、がっくりでしょう?
 さて、今度ぜひ一緒にイベントをやりましょうよ。バラカンさんのお話をお客さんにも是非聞いてもらいたい。


バラカン:ええ、いいですよ。約束しましょう。

今井:よかった。きょうは本当にありがとうございました。


ピーター・バラカン プロフィール
1951年ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科を卒業後、1974年に音楽出版社の著作権業務に就くため来日。現在フリーのブロードキャスターとして活動、「Barakan Morning」(インターFM)、「ウィークエンド・サンシャイン」(NHK-FM)、「CBS60ミニッツ」(CS ニュースバード)、「ビギン・ジャパノロジー」(NHK BS1)などを担当。著書に『200CD+2 ピーター・バラカン選 ブラック・ミュージック アフリカから世界へ』(学研)、『わが青春のサウンドトラック』(ミュージック・マガジン)、『猿はマンキ、お金はマニ 日本人のための英語発音ルール』(NHK出版)、『魂(ソウル)のゆくえ』(アルテスパブリッシング)、『ロックの英詞を読む』(集英社インターナショナル)、『ぼくが愛するロック名盤240』(講談社+α文庫)などがある。twitterのアカウントは@pbarakan


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コメント

  1. 千枝子 より:

    震災直後 いかに日本政府が情報操作をしていたかという例を上げます。私はロンドン在住ですがあの直後 日本に住んでいる母に インディペンデントという新聞の震災に関する記事を郵便でおくりました。第一面の英語と日本語による 頑張れ日本というメッセージが心に響いたからです。しかしナント誰かによって郵便物が開けられ 記事だけすっかりとられていました。インターネットで誰でも観る事が出来るというのに。秘密警察が空港でオペレートしていたのかな。


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