リレーメッセージ「第14回 村西俊雄(元滋賀県米原町長)後編」

リレーメッセージ「第14回 村西俊雄(元滋賀県米原町 町長)後編]


記事中、村西さんは「村西」、水野は「水野」、と表記しています。


「納得する、これが住民投票の一番いいところなんです」

水野:米原町の住民投票は、その前に前例が1件(上尾市)あったものの、自治体合併をめぐる最初期の住民投票でした。

村西:そうですね。

水野:村西さんはこの住民投票で、ご自身を本部長とする「住民投票実施本部」を作られました。これを中心にして、例えば合併先候補の市や町を招いて「自分のところと合併すればこんないいことがある」といったプレゼンを住民の前でしてもらう説明会を企画したり、あるいはそれぞれの合併候補別にメリット・デメリットを一覧する『住民投票ニュース』を週に1度作って配布したり、ほぼ前例がない中で、住民への情報提供の仕掛けをたくさん考案されました。

村西俊雄さん

村西俊雄さん

村西:合併問題は、住民も何となく感覚的にはわかるけれど、あの住民投票では合併先の選択肢は3つもあったので、どれがいいのかと聞かれても判断がつかないじゃないかと(注:この住民投票では合併の枠組みが問われた。選択肢は「坂田郡4町」「湖東1市4町」「湖北1市12町」「合併しない」)。親戚がそこにいるからだとか、子供がそこの学校に通ってるからだとか。(笑) 本当は合併のパターンによって税金も多少は違うし、医療や福祉の制度とかも違うんですよと。自分の町はこうだけども、こんなことをやってる町もあるのかという違いも知りながら、合併をするとこういう形が見えてくるというのを色々な資料にして、すべての集落でフォーラムをやって説明しました。あの住民投票には「合併しない」という選択肢もありましたから、3つの合併パターンと合わせて、四者択一だったんです。常識から考えてとんでもないことですよね。あの時にやった住民投票のいいところは、住民投票に関する法的な整備がなされていないから、何でも自由にルールを決めることができた点です。もちろん買収したりはダメですけれど、それ以外は好きなようにやってもいいと。

水野:公職選挙法ではないから。

村西:そうそう。公選法は関係がないから。だから投票場所も住民投票運動も本来自由なんだといういいところがあって。だから町が持っている情報は住民共有の財産として住民の皆さんにすべて開示して、そして判断してもらうと。こういうことは一番大事なことで、積極的にわかりやすいものをいっぱい作ってバラ撒きましたよ。(笑)

水野:この条例には投票率50%以上という成立要件がありましたね。

投票率を上げ住民投票を成立させるべく、町長も率先して投票を呼びかけた。

投票率を上げ住民投票を成立させるべく、町長も率先して投票を呼びかけた。

村西:そう。よくマスコミにも成立要件を確保できるのかと質問されました。投票率が50%を下回ったらどうするんだ。投票箱を開けるのかと聞かれました。開けませんと答えましたけども。お金も使うのに、成立もしない住民投票を提案した者としての責任はどうなんだとか、いろいろ言われました。(笑) だから何としてでも50%以上の投票率を確保しなくては、というのがもの凄く責任感としてありました。
とにかくみなさん投票に行ってくださいよ。そうでなかったらみなさんで決められませんよという呼びかけをして。これ、僕が一生懸命、車で呼び掛けているところです(写真を示しながら)。(笑) とにかくぜひ行ってくださいよと。こればっかり言ってまわってました。そしたら住民の皆さんは「行きますよ!」って言ってくれました。それでそこそこの投票率になりました(69.60%)。今の選挙よりよっぽど高いです。(笑)

水野:そこで住民の方が「行きますよ!」と言ってくれている時に、「ところで町長はどう思ってます?」と聞かれはしませんでしたか?

村西:住民投票運動の期間中には言いませんでした。ただ、公示の前に少しだけ言ったかなあ。いろんなことがあるけれども、私なら……と。ただこれを「皆さんお願いします」ということは絶対に言わなかった。町長はどうもこの意見だということを知っている人も多かったと思いますけども。
それぞれの合併パターンを支持している議員がいて、それぞれ支持する合併パターンのいいところを主張してくれたんです。これ、大歓迎だったんです。私自身、自分の意見にこだわっていなかったから。あなた方も自分が思う合併パターンのいいところをみんなに伝えてよと。そういう運動の展開を積極的にやってもらって。『住民投票ニュース』という広報をたくさん出して、合併パターンのいいところと悪いところを正直に書きました。そこで議員にも主張してもらいました。
とにかく広報の内容は、いろんな資料を駆使して出していったということです。これだったら財政支援がどのくらい受けられますとか、4パターンの比較……高齢化率がどのくらい進んでいる町なのかとか財政力がどうなのかとか、経常収支率……借金がどうなっているかとか、このまちづくりならどういうことが期待できるかとか。一方、心配な点はどういうことがあるかとか、合併パターンごとに全部表にして、フォーラムでもパワーポイントで説明していました。それで意見交換をして、皆さんどう思いますか?というようなことをやったりして。これをやり出したら、結構面白かったですよ。(笑) これはやみつきになるな、と言いながらやってました。(笑)

水野:面白かった。(笑)

村西:別に1つの意見にこだわって悲壮感を持ってやってるわけじゃないですから。皆さんが決めてくれた通りやるんだから、こっちは。これ、考え方によっては楽なんです。(笑)

水野:なるほど。もし村西さんに下心があって、この選択肢に誘導したいとかそういう考えを持っていたら大変だけども。

村西:そうそう。勝ち負けなんてないんだから。あえて言えば皆さんの選んだものが勝ちなんだから。これでね、びっくりしたのは、2~3件電話をもらったんですが、こんな、町が二分三分するような大議論をしたら町がバラバラになるじゃないかと。そんな影響を考えてるのかと言われたんです。

水野:確かにそういう心配をする人はいるでしょうね。

村西:そうでしょう。選挙なんかだとしこりを残したりしますよね。ところがこの住民投票をやって、合併パターンが1つに決まったでしょう。決まったパターンに反対していた人や、違うパターンを支持していた人もたくさんいます。むしろわざとそういうふうに持っていったんですから。議論をするようにね。ところが、住民投票で実際に1つに決まったら「私はこれとは違う合併パターンを支持してたけど、町長、みんなで決めたこのパターンで是非がんばってくれ」と激励の電話がかかってきたんです。

水野:ほう。

村西:決まったものとは別のパターンを選んだ人が、「これは住民がみんなで選んだパターンだから、頑張ってやってくれ」と。嬉しかったですね。これが住民投票の一番いいところなんです。納得するわけです、住民が。もう自分たちが決めたものだから、決まった以上これで一生懸命まちづくりをしようと。こういうふうになる。勝ち負けじゃないんです、選挙のような。

水野:ひょっとしてしこりを残すとすれば、逆に町が勝手に決めちゃった場合かもしれないですね。オレはあちらの合併先の方がよかったのに勝手に決めやがってと。

村西:そうそう。やってなかったらそうなる。むしろとことん、それが出てくる。それで住民投票の結果、坂田郡4町という合併枠組みパターンでやろうと決まったんです。

水野:みんな、住民投票をすることで納得してしこりは残らなかった。

村西:誰も文句を言ってきませんでした。議員はもちろん住民も。あんなことをしてという声は全部消えてしまいました。みんなで決めたことですから自信を持ってやってくださいという声ばかりでした。これは凄いと思いました。議会もすぐにそう言いました。別にケンカをさせたわけじゃないですからね。みなさん主張してくださいと言ってやってもらって、なら出た結果には従うという雰囲気はできていましたから。選挙はその点、全然違いますね。残りますね。次もありますし。むしろ住民投票をやらなかったらいつまで経っても決まらなかったと思います。

水野:では最後に、もしこの住民投票に反省点があるとしたら、どうでしょう?

村西:反省点ね。うーん。これは住民投票一般というより、この合併についての住民投票の話だけども、合併問題というのは相手のあることです。この時、「坂田郡4町」という枠組みパターンが選ばれたんですが、そこに入っていた近江町がこの枠組みに乗ってこなかったんです(注:近江町は一度この枠組みから離脱し、米原町は坂田郡3町で合併し米原市となった。その後米原市が近江町を編入する)。そこが1つの限界というのか……。まあ他の町にしてみれば独りよがりにも見えますよね。お前はそうかもしれないけど、こちらはそんなこと考えてないなんて言われたら二進も三進もいきません。だからこの時は法定ではなく任意でもいいから合併協議会が存在すること、というのを住民投票の選択肢に入れる条件にしたんです。だから彦根市(湖東1市4町)も長浜市(湖北1市12町)も合併協議会を作ってくれました。ですから同時に3つの合併協に入っていたんです。

水野:どの選択肢を選んでも実現の可能性がちゃんとあるということですね。

村西:そう。それぞれ議論のテーブルができたわけです。そしてそれぞれうちと合併しようと言ってくれる中、住民の意思を聞くのでちょっと待ってくださいとやったんですね。他の町にしてみれば横柄にも見えたでしょうが、そうでないとこちらは選択肢が多いので勝手に決められない。そういうことまでしましたが、それでも近江町は抜けたわけです。それで1年半ほど無駄にした時期がありましたね。ただこれは、この住民投票のテーマが合併問題だったからというだけのことで、一般的な、システムとしての住民投票の問題点というのは……そんなに感じませんでしたね。むしろこれほど面白いものはないなと思いました。要するに、どんなことをしても法的な制限がありませんから、みんなと一緒にやりやすいやり方を考えていける。だから投票所も選挙の時の場所にこだわらず、字ごとにそれぞれ投票箱を置きました。そこに区長にでも来てもらって、町も人を出さないというわけにはいかないけれど、選挙の時のように立会人をつけたりといった難しいことはしないでおこうということで(笑)、費用もできるだけ安くする方法を考えました。不在者投票所も増やして、不在者投票の理由も、別になくていいと。

水野:なるほど。ルールを自由に決められるから。

村西:そうそう。ですからこの後も国で住民投票を法制化しようという話も出ましたけれど、一度住民投票をやった者からすれば、そんなものはない方がいいと思いました。ルールを1つに決めてもらったら余計に困ると。

水野:地域ごとに、住民投票ごとに自分たちでルールも決めると。

村西:そうそう。今なら地方自治法にも何にも違反しないんですしね。だからこのやり方でよかった。住民もそう思ってくたんですから。

(おわり/前編はこちら

村西俊雄プロフィール

1941[昭和16]年生まれ。
商社勤務、国家公務員を経て滋賀県職員に。約37年の勤務で土木部次長、人事委員会事務局長、県立大学事務局長を歴任し旧米原町へ。6ヶ月を助役勤めた後、同町の町長となる。
米原町長時代、周辺自治体との合併をテーマとしたものとしては全国で2番目となる住民投票を実施。日本で初めて外国人に投票権を与えた住民投票となる。
現在、愛荘町長。
ブログ:YAHOOブログ 町長「むらニャン」のあんにゃ・もんにゃ


 

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