スコットランド独立住民投票 現地レポート第2回

(スコットランド、大芝健太郎 2014年9月23日)

日本でもスコットランドの様子が大きく取り上げられているそうだが、ご存知の通り独立反対が過半数を超え、スコットランドはイギリスに留まる事が決まった。今回は、その結果を詳しく見て行きたい。

投票所の前の人々

投票所の前の人々

投票をする瞬間

投票をする瞬間

○投票日
2014年9月18日(木)

○設問
「Should Scotland be an independent country?(スコットランドは独立するべきですか?)」

○開票結果
賛成 1,617,989(44.7%)
反対 2,001,926(55.3%)
投票率 84.5%
32地域のうち賛成が上回った地域は4地域。

投票後の調査をベースにした考察

まず、調査会社「LORDASHCROFT」が実施した投票直後の調査を元に、考察をしてみよう。

○投票理由
賛成に投じた主な理由
「イギリス中央政府への不満」74%。

反対に投じた主な理由
「ポンドが使えるかどうか不確実」57%。

両者に共通の投票理由
「National Health Service(国民保険サービス)」と呼ばれる、収入に関わらず医療が受けられる仕組み。45%
賛成派は「独立しなければ維持する事はできない」
反対派は「独立したら維持できない」と主張していた。

○投票傾向
●「男性は賛成、女性は反対」
男性 賛成47% 反対53%
女性 賛成44% 反対56% 

男性に比べて、女性は不確実な未来を選択することには消極的。これは他の独立を求めているカナダのケベック州や、スペインのカタルーニャでも同様の傾向がある。

●「若者は賛成、お年寄りは反対」
年代別賛成率
16,17歳 71%
18-24歳 48%
25-34歳 59%
35-44歳 53%
45-54歳 52%
55-64歳 43%
65歳 27%

若者の賛成理由はイギリス中央政府への不満など、いろいろあるが、とにかく現状の変化を望んでおり、お年寄りはそれを望んでないという結果が明確に現れていると考えられる。この結果を見ると、次の世代でまた今回のような住民投票が起こったら独立が現実化するとも見る事ができるが、若い時は賛成でも年を取るにつれ、独立反対になるのかもしれない。18-24歳で賛成の割合が落ち込んでいるのは「独立した後も仕事がきちんと続けられるのか不安」という理由からだと考えられる。

●「低所得者層は賛成、富裕層は反対」
賛成派の勝利した4つの地域はいずれも低所得者層がスコットランド平均よりも多く、また失業率も高い地域だった。スコットランドではワーキングシェアなどを実施しており、現在の失業率はイギリス4カ国で一番低くなっている。また独立白書によるとイギリスは32のOECD加盟国の内、格差が大きい国で7番目に位置しているので、これを是正していくというのが、独立の公約の一つだった。一方、富裕層は新たな負担が増える事を懸念して反対に投じている。

○次に独立住民投票をやるのはいつ?

5年後    31%
10年後  17%
次の世代  24%
もうしない 19%
わからない 9%

独立賛成派の人だけで見ると、5年後にもまたやりたいという人が45%もいる。まだ、結果に納得できず、バッジなどを付けて自己主張を続けている人もいるが、早期実現は難しいだろう。一方、独立反対派の中では「もう二度とやらない」と答えた人が25%にも上っている。

日本で報じられているのは主に「民族主義の高揚」と「経済的な先行きの不安」ではないだろうか。これは確かに今回の住民投票の一部を表しているが、それだけではない。前回も伝えてきたが、これは独立賛成派による民主主義運動なのだ。今回の住民投票で独立賛成に投票した人のうち、実に74%がその理由に「イギリス中央政府への不満」(Disaffection with Westminster politics)をあげている。前回の投稿でも少し書いたが「スコットランドの民意がイギリス中央政府に反映されていない」と言う問題がある。イギリス議会(庶民院)の定員650人のうち、現在スコットランド選出の議員は59人しかいない。しかもそのうち保守党は1人しかいないのに、イギリス議会では保守党が与党を担っていて、スコットランドの民意と中央政府とのねじれが頻繁に起こってしまっているのだ。

スコットランド在住の人たちの生の声

ここで投票を終えたスコットランド在住の人たちの生の声を紹介したい。

賛成派

Eilidh Mitchell エイリー ミッチェル さん(22)は住民投票が決まってからずっと独立賛成の立場を主張してきた。「イギリス中央議会中心の政策決定にみんな変化を望んでいる。これはスコットランドだけではない、他のウェールズや、北アイルランドにも言えること。中央議会に軽視されている状況をどうにかしたいと思っているが、スコットランド国民は独立反対を選んだ。この国民の選択の結果は認めなければならないが、キャメロン首相達が投票直前に『権限委譲を進める』という公約はきちんと守らせるようにしなければならない」と話す。投票が終わっても独立賛成を示すバッジがバッグに光っていた。 Eilidh Mitchell
Mike Lavin マイク ラヴィンさん(45)も独立賛成に投じた。「結果はNOを選んだ人の方が多かったことが残念で仕方がない。でもこれがスコットランド人の多数の意見だから認めるしかない。」これからスコットランドは良くなると思いますか?と言う質問には「大幅な権限委譲(Devolution Max)の実現は難しいので、これから先スコットランドが良くなるとは思わないけれど、来年2015年のイギリス議会選挙では変わるかもしれない」 Mike Lavin

反対派

お子さんを連れて公園に来ていたDorota ドロータさん(30)に話を伺った。彼女はポーランド人だが、EU加盟国のスコットランド居住者には投票権がある。「私は独立反対に投票したので、結果を見て安心しました。でも独立に賛成の人も多かったし、投票率も高かったから、この住民投票はイングランドへの影響がとても大きいはず。これからはスコットランドは少しずつ良くなると思う。権限委譲が行われて今より、強い国になると思う」 Dorota
ベンチに座って二人でお菓子を食べているところに声をかけさせてもらった。
Edward(24)エドワードさんとAshleigh (24) アシュレイさん
「独立反対に投票した。理由はEUにも入れない可能性があるし、イングランドからの交付金がなければスコットランドは財政的にやっていけなくなってしまう。とにかく反対派が多数になって安心している。賛成派の中にはとても怒っている人もいるし、かなり悲しんでいる人もいるけれど、とりあえず20年間はこのような独立の心配はないと思う。権限委譲も一ヶ月くらい様子を見てみないと、まだどうなるかわからない」
Edward_Ashleigh

   
このように、みんな「権限委譲」のことを気にしている。今は教育、観光、一部の課税権などの権利は既に委譲されているが、軍事、外交、エネルギーなどについては認められていない。「自分たちの国の大切なことでさえ、スコットランドの声はきちんと届くことがなく、イングランド中心のイギリス議会に決められてしまう」。このことが終始一貫して一番のテーマなのだ。そもそも、この住民投票を主導してきたスコットランド国民党は3択をキャメロン首相に提案していた、すなわち「独立」「大幅な権限委譲」「このまま」で住民投票が行われる可能性があったのだ。しかし、キャメロン首相は大幅な権限委譲になることを恐れ「独立」という極端な選択をスコットランド人はしないと高をくくり2択で合意した。しかし、予想以上の独立賛成派の急進に焦ったキャメロン首相は「独立に反対すれば、大幅な権限委譲を約束する」と発言した。それにより、独立をしなくても権限委譲が行われれば十分だという層が「NO」に回ったことも独立反対派の勝因の一つになっている。そのため、この公約が守られるかどうかというのに、みんな敏感なのだ。

今、スコットランド国民の関心は「独立するか、しないか」ではなく「権限委譲がどの程度行われるか」にシフトしている。

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筆者プロフィール
大芝健太郎(27)旅するジャーナリスト
スイス、リトアニア、ブルガリアなど、ドイツを中心にヨーロッパの住民投票・国民投票を現地取材。「原発」国民投票賛同人。
Blog: http://shibaken612.blogspot.com


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