佐賀県民にとって、まさに寝耳に水の話である。安倍晋三政権は7月22日、自衛隊に新たに導入される新型輸送機「オスプレイ」の配備先として佐賀空港(佐賀市)を選定、佐賀県に移転に関する検討を要請した。さらに、同空港には米海兵隊が利用することも考えていることを明らかにした。

同日、防衛省の武田良太副大臣が佐賀県庁で古川康知事と会談、正式に要請した。さらに「米海兵隊が佐賀空港を利用することも日本政府として考えている」(武田副大臣)と述べるなど、沖縄の基地負担軽減の観点から米軍が利用することも明言した。

これに対し、古川知事は態度を明確にしなかった。武田副大臣は記者会見で、古川知事からは「政府の方針、また考えというものを聞いたということにとどめておいてほしい」と言われたと言う。佐賀県や佐賀市にとっては、寝耳の水の要請として受け止められたようだ。

だが、海兵隊など米軍が本土へ移転するという考え自体は新しいものではない。特に今回の佐賀空港への移転は、実は一度、米軍側から日本政府に提案されたことがあるという。

沖縄タイムス論説委員を務めたジャーナリストの屋良朝博氏によれば、2002年から06年ごろまで、米国のラムズフェルド元国防長官がリードした米軍再編に関する日米協議が行われていた当時、この交渉に直接携わった米外交官から「日米間の長年の懸案である沖縄の海兵隊普天間飛行場を、佐賀空港に移転させるアイディアを日本に提起したと聞いた」と打ち明ける。それは、「佐賀空港は発着便が少ない。周辺に住宅もない」と述べ、「沖縄 の普天間飛行場を移転するのにもってこいだからだ」(屋良氏)。

この米外交官の説明は、首肯できる部分が多い。屋良氏はこの証言を記した自著(『砂上の同盟-米軍再編が明かすウソ』2009年)を引用しながら、米国側が佐賀空港への移転を提案した理由を次のように述べる。

まず、佐世保の海軍基地(自衛隊もある)に配備されている艦船と合わせて、機能を集約できる。九州には自衛隊の訓練場がいくつもあるので、狭くて演習の制限が多い沖縄にこもるよりも条件がいい。また、佐賀空港から強襲揚陸艦の母港である佐世保までは55キロメートルと近い。同空港は滑走路は有明海に面しており、ヘリコプターは海上を飛べば騒音問題も少ない。

北朝鮮有事でも、沖縄より佐賀が有利

また、自衛隊にとっても、陸上自衛隊西部方面隊総監部がある熊本県・健軍駐屯地まで58キロメートル、近場には福岡駐屯地が45キロメートルの距離にある。実際に演習場も近く、西日本最大の日出生台演習場(大分県、4900ヘクタール)まで98キロメートル。自衛官と海兵隊員が寝食を共にしながら共同訓練することも可能だ。

沖縄本島の延長120キロメートルを半径にして、佐賀空港を起点に円を描くと、九州中北部に演習場、港、駐屯地の全機能がすっぽり入るという。小さな沖縄と比べて広い演習場がある九州なら、海兵隊も十分に訓練して、自衛隊との「インターオペラビリティ」(相互運用性)も高めることができる。しかも、日本が最も脅威を感じる北朝鮮に対しても、佐賀空港との距離は760キロメートル。沖縄からの距離1400キロメートルのほぼ半分。まさに、ナイス・ロケーションである。

だが、日本政府はこの提案をしたときに「黙って聞いているだけで何も反応がなかったと(米外交官に)聞いた」(屋良氏)。それ以後は話題にもならず、「その後の取材でも佐賀空港について耳にすることはなかった」と屋良氏は振り返る。

武田副大臣は、「なぜ佐賀なのか」という質問には、「地理的な要素、環境面、運用面などなど、総合的に判断した結果」と記者会見で述べた。また、沖縄の基地負担軽減についても、「(移転先として)可能性のあるさまざまな地域を検討してきたが、(前述のような理由を元に)佐賀空港がベストと判断した」と話す。

また、佐賀県には陸上自衛隊西部方面総監部、海上自衛隊の佐世保地方総監部、そして、航空自衛隊の西部航空方面隊司令部などもあり、統合運用に資する地域にあると答えるなど、屋良氏の説明とほぼ重なる発言を行っている。

政府が佐賀空港への移転を決めた背景には、足元では今年11月の沖縄知事選があるためだという指摘がある。佐賀空港への配属や米海兵隊の同空港利用となれば、基地の本土移転による沖縄の負担軽減を求めてきた沖縄県にとっては、ある種の朗報ともなる。

「沖縄が最適という政府の説明が瓦解」

しかし屋良氏は「長らく日米同盟維持と安全保障上の抑止力を保つためには沖縄県が最適と言ってきた政府側の説明が瓦解する」と指摘する。日本の防衛政策や日米同盟の関係は、言葉の一つ一つをきちんと検証しないまま続けられてきた。そんな安易な発想から佐賀空港への配置が決められたのではないかと疑問を呈する。

防衛省によれば、佐賀空港の西側に2016~18年度にオスプレイの駐機場を整備。武田副大臣は配置規模について、ティルトローター(オスプレイ)17機、陸上自衛隊目達原駐屯地のヘリコプター50機、最大70機と佐賀県に伝えている。自衛隊の駐屯部隊としては700~800人規模を考慮しているという。